マグネットキーの仕組みとは?美和ロックECシリンダーの構造と注意点
この記事でわかること
- ECシリンダーの仕組み
- ECシリンダーがピッキングに強いと評価されていた理由
- ディンプルキーとECシリンダーを見分けるポイント
- ECシリンダーが廃番になった背景
- 鍵が回らなくなる主な原因と、起こりやすい症状
- 応急的にできる対処とその限界
- ECシリンダーが交換判断になりやすい理由
記事監修者
「すごわざ鍵開け達人」として関西・関東のテレビに出演。鍵職人としてのキャリアは12年、現在はエキスパート集団を束ねるマネージャー。親切丁寧な防犯アドバイスにも定評がある。
まっすぐに並んだ凹みが4~5個ある子鍵だけど、ディンプルキーとは少し違う……
最近ではかなり珍しくなった鍵ですが、マグネットキーのひとつとして1970年代から80年代頃の集合住宅などでよく使われていたECシリンダーと呼ばれる鍵があります。「電子キー」とも呼ばれていたので、こちらの名称を聞いたことがある方もおられるかもしれません。
ECシリンダーは磁石を使った「マグネットタンブラー」(又は「マグネチックタンブラー」)を採用した、当時としては非常に珍しい構造のシリンダー錠でした。物理的なピッキングに強いとされ、一時期は高い防犯評価を受けていた鍵でもあります。
しかし現在では製造が終了しており、鍵が回らない、使いづらくなったといった相談も増えています。この記事では、ECシリンダーの見分け方やマグネットキーの仕組みを整理したうえで、なぜ不具合が起きやすいのか、そして今後どう考えるべき鍵なのかを解説します。
目次
美和ロックECシリンダーとは

美和ロックが開発したECシリンダーは、磁石の力を使ってタンブラーを動かす特殊な機構を持つ鍵です。
子鍵の見た目はディンプルキーに似ていますが、構造や考え方は異なります。まずは、ECシリンダーがどのような位置づけの鍵だったのか見ていきましょう。
マグネットを採用したシリンダー錠
ECシリンダーは、磁石の力を利用して内部構造を移動させる特殊なシリンダー錠です。磁石を使うシリンダー錠は海外にいくつかあるようですが、一般的に「マグネットキー」「マグネチックタンブラー錠」「電子キー」(英: magnetic-coded lock)などと呼ばれています。
簡単に言うと、内筒が回転しないよう邪魔をしている「タンブラー(障害物)」を移動させる手段として主に磁石を使用しているシリンダー錠です。磁石というとS極N極ですが、これらの極の吸着や反発を利用してタンブラーを動かすわけです。


無論、この磁石タンブラーを動かすために子鍵にも磁石が埋め込まれています。正しい鍵が入ると、磁石タンブラーがすべて外筒側へと押し出され、内筒が回転し、解錠となります。
ECシリンダーは正面から見ると下図のようなタンブラー構成になっています。


開発した美和ロックとしてはディスクシリンダーの不正開錠方法に対する脆弱さを克服するための、ひとつの試みだったのかもしれません。現に、このシリンダーが登場したのはディスクシリンダーが公団や集合住宅で採用され普及した年代の少しあと、70年代から80年代で、急激に増加したマンション群などではこのECシリンダーの採用も多かったようです。
シリンダーの構造的には美和ロックが長年開発してきたディスクシリンダーのようなウェハータンブラー系ではなく、ピンシリンダーの改良型です。磁石タンブラーが納められている空間は水平に並んでいますが、そこに垂直に並ぶピンシリンダーのタンブラー構造が残っているといったところです。
通常のピンシリンダー錠の仕組みについては下記の記事で詳しく解説しています。
▼関連ページ他にも磁石を利用した鍵で有名なEVVA(エヴァ、オーストリアの老舗メーカー)のMCS錠とは違い、あくまで磁石タンブラーを反発の力で外筒側に押し出すというシンプルな構造なのですが、ピンシリンダー構造と共存しているため、子鍵には刻みキーの一部のような突起部分と最大6箇所の凹みがあります。鍵の形状情報と磁気情報の両方が一致してはじめて正しく動作する仕組みとも言えるでしょう。
ECシリンダーの子鍵には凹みの数が違う3種類がありますが、これは発売から2回バージョンアップがあったという風に考えて頂くと良いと思います。

(美和ロック公式サイトより)
| シリンダー名 | 凹みの数 | 合鍵・MK複製注文対応 |
|---|---|---|
| 76EC | 1個 | 2038年3月31日迄 |
| 83EC | 4個 | 2036年3月31日迄 |
| E6 | 6個 | 2039年3月31日迄 |
当時、こうした磁石式のシリンダー錠は非常に珍しく、物理的に部品を押し上げる従来構造とは異なる点が高く評価されていました。
一方で、磁力を利用するという特性上、内部部品の動作は磁石の状態に強く依存します。この点が、後年になってトラブルや評価の変化につながる要因にもなりましたが、少なくとも登場当初は「ピッキング不可能な高性能シリンダー」として位置づけられており、CP-C認定錠でもありました。
ECシリンダーの防犯性能:ピッキングに強い?

ECシリンダーが高い防犯性能を持つと評価された理由は、一般的なシリンダー錠とは不正解錠の前提条件がまったく異なっていた点にあります。ピンシリンダーやディスクシリンダーは、「正しい鍵」によって内部部品を物理的に押し上げたり回転させたりする構造のため、工具によって同じような動作を再現することができました。
一方、マグネットキーを採用したECシリンダーでは、内部のタンブラーを動作させるために、正しい位置に配置された磁石と磁極の組み合わせが必要になります。
また、磁石タンブラーは小さな部屋のような密閉空間(チャンバー)にあるため、従物理的にピックのような工具が届きません。このため従来のピッキング手法は成立しにくいのです。ECシリンダーが登場当初、非常に高い防犯性を持つ鍵として評価されていたのはこういった部分でした。
ただし、この防犯性能はあくまで専用の工具や知識が存在しないことを前提とした評価でした。磁石を使う構造である以上、内部の動作条件が明確になれば、それを再現する手段が生まれる可能性は否定できません。後年になって専用工具による開錠手法が確認されたことで、ECシリンダーの防犯評価は大きく見直されることになります。
ECシリンダーの見分け方


ECシリンダーは外観だけで判断しづらく、ディンプルキーと混同されることも少なくありません。美和ロックの鍵穴はJNシリンダーやディスクシリンダー以外は横向きのキーウェイですが、ECシリンダーのそれがPRシリンダーのものと似ていなくもないのです。
また、子鍵のほうも凹みがいくつかあるディンプルタイプなので、まだ使用している場合は「これはどのシリンダー?ディンプルキーの一種?」と首を傾げている方もおられるかもしれません。
ディンプルキーシリンダーについては下記の記事が詳しいので、興味がある方はぜひご覧ください。
▼関連ページ鍵足の凹みで判別できる特徴
顕著なのは、子鍵の側面に7つの黒い円があることと、凹みがあるディンプル部分近くに小さな突起があるという部分でしょうか。特に凹みが6つあるECシリンダーのなかでも後発のタイプ(E6シリンダー)は、表面に触れるだけでこの突起部分がわかります。

子鍵の裏を見てみると、こちらは切削されていないウェーブキー(内溝キー)のような造形です。この部分が鍵穴の「^」に似た箇所を通るので、判断に迷っている場合は裏側を見てみるのが一番手っ取り早いかもしれません。

ディンプルキーは美和のPRシリンダー含め多くがリバーシブルキーになっているので、裏面だけ造形が違うということはほぼありません。
ディンプルキーと混同されやすい理由
ECシリンダーがディンプルキーと混同されやすい最大の理由は、子鍵の見た目が近いことにあります。ある意味、ECシリンダーにもピンシリンダーの1列が残されていますから、ディンプルキーの一種と言えなくもないかもしれません。
そして水平に並ぶタンブラーたちは磁石の作用によって動く仕組みです。この磁石タンブラーの構造が追加されたことで、部分的な見た目・構造の類似性とは裏腹に、構造の発展の仕方や経年劣化の傾向、防犯評価の変化は大きく異なるものになっていきました。
ECシリンダーが廃止になった理由
美和ロックはECシリンダーの廃止時期について明確にいつ、とは記載していませんが、現在では「廃止シリンダー」のリストにあるシリンダーのひとつとなっています。2006年頃製造終了となったとしている情報もあるため、ディスクシリンダーなどと比較すると早い段階で製造中止が決まったようです。
美和ロックはリストにある製品を廃止する理由として下記2点を挙げており、ECシリンダーも鍵違い数や、防犯性能の面で製造中止が決まったと考えられます。
- 製造に伴 い鍵違い数(合鍵)の限界を超えたこと
- より更に高いセキュリティが求められるようになったこと
詳しい背景には、磁石を使う構造ならではの問題や、防犯性能に関する評価の変化があったでしょう。ここでは、ECシリンダー特有の理由を見ていきましょう。
同じように後年、評価が変わってしまったシリンダーとしてはやはりディスクシリンダー(DSシリンダー)が有名ですが、この鍵については下記に詳しい記事があります。ぜひご一読ください。
▼関連ページ磁力に依存する構造が抱えていた問題

ECシリンダーが廃番となった最大の理由は、磁力を前提とする構造が長期使用に向いていなかった点にあります。磁石そのものが破損するわけではありませんが、長年使用することによる劣化は避け得ませんでした。
ECシリンダーは垂直に並ぶピンタンブラーに追加された磁石タンブラーが大きな特徴です。しかし磁力を前提とする構造である以上、内部部品が常に一定の力で動作することが前提になります。磁石の力が弱まったり、内部の抵抗が磁力を上回った場合には、正しい鍵を使用していてもタンブラーが十分に移動せず、鍵が回らなくなる症状につながります。この点が、構造的な問題として表面化したと考えられます。
マグネットキー用に使用された磁石は、大変一般的なフェライト磁石と推察されますが、永久磁石と呼ばれるフェライト磁石も、全く磁力が減衰しないわけではありません。
特にフェライト磁石は他の希土類磁石と違って高温には強いものの、低温に弱く、冬のマイナス気温など低温環境に晒され続けると磁力が奪われていきます。また、永久磁石といえど自然に年月とともに減磁するため、20年以上使用していると減磁に伴う不具合が出てきてもおかしくないのです。
不正開錠方法が確立してしまった
登場当初、ECシリンダーはピッキングに強い鍵として評価されていましたが、後年になって構造を再現する専用工具による開錠手法が生み出されてしまいました。
これもある意味、磁石を使用しているということで、時間の問題だったと考えられます。ECシリンダーには7つのタンブラーが入るチャンバー(小部屋)がありますが、すべてに磁石タンブラーが納められているわけではありません。
これは子鍵側も同様で、側面にある黒い斑点部分はすべてが磁石ではなく、チャンバーに対応して殆どがダミーです。ということは、どこに磁石があり、どちらの極がセットされているのかがわかれば、あとはピンタンブラー部分だけということになります。
このため、子鍵の凹みを見ればわかるように、美和ロックはピンタンブラーの本数を増やして複雑さを追加するなどして対策をしたようですが、結局のところ磁石タンブラーの脆弱性はカバーできませんでした。
鍵違い数が思ったより少ない
最後に美和ロックも挙げている「鍵違い数が限界を超えた」という部分ですが、これはピンタンブラーなどであればタンブラーの数や、タンブラーに設定されている段階数(子鍵の刻みの深さ)など、そのシリンダーが持つタンブラーの要素によって計算されます。
6本ピンのピンシリンダー錠は理論鍵違い数が100万通りと言われていますので、だいたい10段階ほどあると考えられますが、磁石にはS極とN極の2通りしかありません。また、ピンタンブラー部分も最終的には6本に増やされましたが、設定されている段数はかなり少なく、大きな追加とはならなかったようです。結果的に、鍵違い数においても現在のディンプルキーシリンダーが誇るような何億通りといった鍵違い数ではありませんでした。
理論鍵違い数は、マスターキーシステムなどを組むと組み合わせのパターンが減ってかなり減少してしまいます。そういった意味でも、磁石タンブラーを使用しているECシリンダーには限界があったということでしょう。
こうした状況を受け、ECシリンダーは「高性能だが長期的な防犯性を維持しにくい鍵」という評価に変わっていきました。
ECシリンダーは結果的に交換判断になることが多い

ECシリンダーは仕組みや防犯性そのものよりも、「不具合が出たあとにどう対応できるか」という点で扱いが難しい鍵です。修理や調整による延命が現実的でないため、別の鍵へ切り替える判断になることが多くなります。ここでは、ECシリンダーが交換判断に至りやすい理由を整理します。
構造上、修理や調整による延命が難しい
ECシリンダーは、磁力を前提に内部構造が設計されているため、一般的なシリンダーのように分解清掃などで状態を改善することが難しい鍵です。内部のマグネットタンブラーは、磁力と微妙な位置関係によって動作しており、磁力の減衰で不具合が起きた場合、修理がほぼ不可能です。
そのため、動作が不安定になった段階でできる対応は限られてしまい、他のシリンダーでは可能な修理によって延命させるという選択肢がほぼありません。これは故障しやすいという意味ではなく、構造上、延命に向かない鍵ということです。実際、未だに現場ではECシリンダーに遭遇しますので、長く使用できるシリンダーのひとつであることに間違いはありません。
ただ、ピンシリンダーのように「古くなってきたから最新のもので交換」して済ませるということができないのです。
廃番のため同一シリンダーへの交換ができない
上記の続きになりますが、ECシリンダーはすでに製造が終了しており、新品のシリンダーを入手して同じものに交換することができません。一般的な鍵であれば、経年劣化などが原因で不具合が出た際に「同じ型式へ交換する」という選択肢がありますが、ECシリンダーではまずこの「交換」ができません。

結果として、対応する場合は現行の別シリンダーへ切り替えることになります。ただし、ECシリンダーがついていた錠前はPMK面付錠のように他の交換用シリンダーを取り付けられない、という仕様のものが多く、その場合は錠前一式の交換になります。
合鍵で使い続けるのも現実的ではない
ECシリンダーは、合鍵を作成して使い続けるという選択も取りにくい鍵です。シリンダーの不具合は時折、新しい合鍵を使用することで改善することがあります。刻みキーの場合、刻みが徐々に摩耗して変形するため、新しい子鍵を使うと以前のように動くことが多々あります。
しかしマグネットキーは磁石を使用しているため、子鍵側の磁力が復活しても、シリンダー内の磁石タンブラーが減衰したままではトラブルの解消ができません。
また、子鍵のほうも対応できる店舗が限られますし、ブランクキーそのものが高額ということもあって、合鍵作成にかかる費用も一般的な鍵に比べてかなり高くなる傾向があります。そこに正しい磁石タンブラーを埋め込む処理もあるため、ディンプルキーより高額になることもしばしばです。
※鍵猿ではECキーの複製は行っておりません。追加のキーをご希望の際はメーカーへ発注させて頂きますので、遠慮なくお申し付けください。
更に先述したように合鍵を作成できたとしても、シリンダー側の状態が改善するわけではありません。このため、合鍵を作って延命するというのも現実的な選択肢ではなく、シリンダー交換した方が防犯性能が最近の水準にあったものになりますし、長期的に考えてコストパフォーマンスが良いということになるわけです。
鍵が回らないECシリンダーで困ったら鍵猿にご相談ください
ECシリンダーは、構造が特殊であるがゆえに、トラブルの症状が出ると修理が難しい鍵です。鍵が回りにくい、引っかかるといった違和感がある場合、使い続けるべきか迷う人も少なくありません。
状態によっては、合鍵作成や一時的な対処でその場をしのげることもありますが、根本的な解決にならないことが多いのが実情です。無理に使い続けることで、突然開かなくなるといったトラブルにつながる可能性もあります。
ECシリンダーの扱いに迷ったときは、構造を理解したうえで現状を判断できる鍵屋に相談することが大切です。鍵猿では、ECシリンダーの状態確認から、今後の対応についてのご相談まで対応が可能です。現状に合った選択肢をご案内しますので、困ったときはぜひ一度ご相談ください。
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